平成18年2月4日(土)げんでん東海テラパークにおいて「第3回eまなびクラブ交流会」を開催いたしました。 開催を終えて、この度の交流会のご監修をいただきました奈須正裕教授より「第3回開催に寄せて」と題しましてメッセージをいただきましたのでご紹介いたします。
「継続は力なり」というが,「げんでんeまなびクラブ交流会」も今年で第3回を迎えることができた。主催の日本原子力発電株式会社はもとより,後援をいただいた地域の教育委員会,直接にご指導にあたられた先生方,さらには子どもたちを温かく見守り,支えて下さった保護者や地域の皆様に,監修者として心よりの感謝を申し上げたい。
今回の学習発表で印象的だったのは,そういった関係各位のお骨折りが,子どもたちの学びの質的な深まり,高まりとして,見事に結実してきているということであった。具体的には,特定のテーマにこだわり,何年も継続して地道な探究を積み重ね,私たち大人でさえもはっとさせられるような深い洞察や高い見識に到達している子どもたちの姿に,多数出会えたように感じるのである。最たる事例は,2人の高校生,林さんと高橋さんによる郷土史研究であり,実に9年間にも及ぶ緻密にして壮大な研究成果の報告には,誰しも目を見張らされた。
このような学びは,かつて誰かがどこかで生み出し,本の中に固定化され権威づけられた知識を,「どうもそういうことらしい」といった他人事感覚で受け身的に暗記する「お勉強」とは,およそ程遠い活き活きとした自分事の学びであろう。むしろ「研究」と呼ぶのが相応しく,実際,子どもたちも自身の取り組みをそのように形容していた。
何より重要なのは,そこにおいて子どもたちが,対象との鋭く粘り強い対決を経て,他ならぬ自分が今ここで知識を生み出しているとの実感を強く抱いていることであろう。そして,この実感こそが,学びの悦楽の本体なのである。
ひとたびこのような学びを経験した者は,生涯にわたって自らの心が命じるままに進んで学び,主体的に考え,深く探究し,その成果を人と分かち合うことをやめることがない。それは,深い人間的悦びに満ちた真実な生き方である。思えば,これこそが,日本の教育界が長年にわたって追い求めながら,なかなかに実現し得なかったことではあるまいか。
その意味でも,この交流会の意義は,企画に携わった私たちの予測をすでに遙かに超えているのかもしれない。文字通り,うれしい誤算である。
言うまでもなく,このうれしい誤算の原動力は当の子どもたちの内にある,真の学びを求める動きであろう。交流会は,その潜在する動きを顕在化する好機となったのである。さらに多くの子どもたちの輝かしい未来のためにも,交流会のますますの発展を祈念する次第である。
奈須 正裕(なす まさひろ) 1961年生まれ
徳島大学教育学部卒、東京学芸大学大学院、東京大学大学院修了、博士(教育学)神奈川大学経営学部助教授、国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学文学部教育学科教授を経て、現在、上智大学総合人間科学部教育学科教授
主要著書・編著書
「学ぶ意欲を育てる-子どもが生きる学校づくり」金子書房、1996
「総合学習を指導できる教師の力量」明治図書、1999
「総合的な学習の評価のテクニックとプラン」教育開発研究所、2001(編著)
「学校を変える教師の発想と実践」金子書房、2002
「信頼される学校づくりに向けたカリキュラム・マネジメント(第2巻)-確実に力のつく総合的な学習の時間マネジメント-」教育開発研究所『教職研修』増刊、2006(編集)
など